妊婦・授乳中の潰瘍性大腸炎の治療について
本記事は妊婦さんや授乳中の女性の潰瘍性大腸炎の対応についてです。
この記事でわかること
妊娠・授乳期の対応
妊娠期間中は特に病気がない人でも、自然流産のリスクが15%程度、不妊症や先天的な形態異常などのリスクがあり、特に染色体異常は年齢が上がるに連れて上昇することが分かっています。
潰瘍性大腸炎による妊娠などリスクはこのような元々の背景を理解した上で考える必要があります。
まず、
寛解期(病気が現在落ち着いている状態)の女性の妊孕性は健常人と同等
と言われています。
しかしながら、現在活動期の患者さんの不妊率は残念ながら上昇するようです。
加えて、大腸全摘術や回腸肛門吻合術後は不妊率が3倍(48%)に上昇すると言われています。
潰瘍性大腸炎が活動期の妊婦さんは早産(37週未満)や低出生体重児(2500g未満)のリスクがわずかに高いと言われていますが、寛解期であればこちらも概ね安全に妊娠・出産が行えるようです。
海外のデータでは妊娠における
母体や胎児への最大のリスクは潰瘍性大腸炎自体の活動度
ということが分かってきており、治療による有益性が薬剤のリスクを上回るため、可能であれば
妊娠中も薬剤を中断しないことが重要
とされているようです。
妊娠中の薬剤は時期と種類がともに重要であり、どの薬をいつの時期に使用するかの情報が大切です。
アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムスなどの潰瘍性大腸炎にも用いられる薬剤については産婦人科診療ガイドラインでもきちんと説明を行った上で使用できるとしています。
一方で、インフリキシマブ(レミケード)やアダリズマブ(ヒュミラ)は妊娠中期以降に胎盤から胎児に移行し、出生した児に合併症を及ぼした報告もあるため、報告により時期は異なるが中期〜後期は中止を推奨するものが多いです(ただ、中止できない際には出生した新生児への予防接種のスケジュールの調整などの相談が必要になります)。
授乳期に関しては、大なり小なり薬剤は母乳中に移行はしますが、5-ASA、ステロイド、レミケードやヒュミラは大きな問題はないと言われています。
逆にシクロスポリン、タクロリムスなどは授乳期にはできるだけ避けるように言われています。
これらの情報は日々更新されていくため、「妊娠と薬情報センター」などで最新データを確認する必要があります。
どちらにしても病状の細かい把握と薬剤選択が求められるため、主治医の先生とよく相談して決める必要があります。
※本記事のみを参考にして薬剤を自己中断するなどは決して行わないでください。
参考:
炎症性腸疾患ガイドライン2020